女性政治家と学ぶ「未来の変え方」―政治家の「二世問題」の深層

女性議員たち

なぜ今、私たちは「政治」を知る必要があるのか

「また値上げか…」
「このままだと、老後のお金が不安だな」
「仕事と子育て、もうヘトヘト…」

毎日の生活の中で、ふと、そんなため息をついてしまうことはありませんか?

こんにちは。元経済新聞記者で、現在は女性の生き方やキャリアについて執筆しているライターです。日々、多くの女性に取材する中で痛感するのは、皆さんが将来への漠然とした不安や、社会に対する言いようのない「生きづらさ」を抱えているという事実です。

私たちは、その原因を自分の努力不足や運のせいにしがちです。でも、もし、その不安や生きづらさの根源が、あなたの知らない場所で決められている「ルール」にあるとしたら…?

その「ルール」を決めている場所こそが、「政治」の世界です。

政治と聞くと、国会で野次を飛ばし合うおじさんたちの姿や、難解な法律の名前が浮かび、自分とは関係のない遠い世界の話だと感じてしまうかもしれません。しかし、断言します。政治とは、私たちの暮らしのそのものです。

毎日食べる食品の消費税も、子どもの保育料も、親の介護保険制度も、そしてあなたの給料から天引きされる税金の額も、すべては政治が決めています。
そして制定されてから何十年も経った法令や条例が古かったり、穴だらけだったりすれば、変化する私たちの暮らしとの乖離がうまれます。

華やかな女性政治家たちは一体どんな想いで、私たちのために何を変えようとしているのか。なぜ、政治家には「二世」ばかりが目立ち、私たちのリアルな声は届きにくいのかを深掘りします。

もくじ

第1部:時代のフロントランナーたち――日本の女性政治家、その素顔と政策

まず、私たちが生きるこの国の羅針盤を握る、あるいは握ろうとしている女性リーダーたちに焦点を当てましょう。彼女たちはどんな人生を歩み、どんな未来を描いているのか。その政策が、私たちの日常にどう繋がっているのかを具体的に見ていきます。

【ケーススタディ1】国家の盾となる「鉄の意志」:高市早苗

キャッチフレーズ:保守のアイコンにして、経済安保のアーキテクト

自民党内で常に総理・総裁候補として名前が挙がる高市早苗氏。そのシャープな物言いと、ブレない保守的な信条から「鉄の女」とも呼ばれます。しかし、彼女の政策の核心は、単なる精神論ではありません。

松下政経塾を経て政界入りした彼女が一貫して重視してきたのが「経済安全保障」です。

「経済安保って、なんだか難しそう…」と感じるかもしれませんね。簡単に言えば、「国民生活に不可欠なものを、外国の都合に振り回されないように国が守る」ということです。例えば、私たちが毎日使うスマートフォンの半導体や、医薬品、エネルギー資源。これらが特定の国からの輸入に頼りきっていると、国際情勢が悪化した途端に手に入らなくなり、社会がパニックに陥る可能性があります。

高市氏は、経済安全保障担当大臣として、こうしたリスクから日本の企業や国民を守るための法律制定を主導しました。これは、海外の安い製品を享受してきた私たちにとって、短期的にはモノの値段が上がる可能性もはらんでいます。しかし、長期的には、私たちの生活の安定と、子どもたちの世代が安心して暮らせる社会の土台を作るための政策なのです。

彼女のキャリアは、女性が男性中心の保守政界でトップを目指すことの困難さと、それを乗り越えるための圧倒的な専門性と論理武装の重要性を示唆しています。

2 国際舞台の冷静なる交渉者:上川陽子

キャッチフレーズ:静かなる情熱を秘めた、日本の「顔」

2023年秋に外務大臣に就任して以降、その冷静沈着な立ち居振る舞いと、的確な発言で国際的な評価を高めているのが上川陽子氏です。三菱総合研究所の研究員から、ハーバード大学ケネディスクールへ留学。徹底した現場主義とデータ分析を信条とする、政策のプロフェッショナルです。

彼女の名が広く知られたのは、法務大臣を3度務め、難しい判断を迫られる死刑執行命令を出した時でした。その決断には賛否両論ありますが、法治国家として定められたルールを厳格に運用するという、彼女の強い責任感の表れとも言えます。

外務大臣としては、複雑化する世界情勢の中で、日本の国益を守るために各国との対話を精力的にこなしています。彼女の姿は、感情的な対立ではなく、粘り強い交渉と知性こそが国際社会における最大の武器であることを示しています。家庭では二人の娘を育て上げた母でもあり、そのバランス感覚は、多様な役割を生きる現代女性にとって一つのロールモデルとなるかもしれません。

3「生きづらさ」に寄り添う政策提言者:野田聖子

キャッチフレーズ:自身の経験を、社会を変える力へ

自民党内で、多様な生き方を認め合う社会の実現を強く訴え続けているのが野田聖子氏です。彼女の政策の根底には、常に自身のパーソナルな経験があります。

長年の不妊治療の末に、障害を持つお子さんを授かった経験。その経験を通じて、彼女は日本の社会がいかに画一的な「家族観」に縛られ、様々な困難を抱える人々へのサポートが不足しているかを痛感しました。そこから、選択的夫婦別姓の導入や、LGBTQ+への理解増進、そして障害の有無に関わらず誰もが暮らしやすいインクルーシブな社会の実現を、党内での逆風を恐れずに主張し続けています。

彼女の活動は、「政治とは、多数派のためだけにあるのではない。声の小さい、社会の片隅で困難を抱える人々のためにこそあるべきだ」という強いメッセージを放っています。私たちの友人や家族、あるいは私たち自身がいつ直面するかもしれない「生きづらさ」。それに寄り添う政治の温かさと重要性を、野田氏は体現しているのです。

【ケーススタディ4】鋭く切り込む改革の旗手:蓮舫

キャッチフレーズ:税金の無駄遣いは許さない、国会の「事業仕分け人」

元ニュースキャスターとしての知名度と、シャープな言葉で相手を問いただす姿が印象的な立憲民主党の蓮舫氏。彼女の代名詞といえば、民主党政権時代の「事業仕分け」です。「2位じゃダメなんでしょうか?」という発言はあまりにも有名ですが、その真意は「国民の税金を使う以上、世界一を目指すという明確なビジョンと覚悟があるのか」という問いでした。

彼女の政治信条の根幹は、徹底した行政改革と情報公開です。政治家や官僚が税金を「自分たちのお金」であるかのように使うことを決して許さず、その使い道をガラス張りにして国民の監視下に置くべきだと主張します。近年では、東京都知事選挙への出馬も噂されるなど、常に国政の中心で存在感を示し続けています。

その厳しい追及スタイルは時に批判も浴びますが、「国民から預かった税金に、1円たりとも無駄があってはならない」という彼女の姿勢は、政治不信が広がる現代において、重要な役割を果たしています。

5 リベラルの火を灯し続ける論客:辻元清美

キャッチフレーズ:NPO出身、市民の視点を国会へ

大学在学中に国際交流NGO「ピースボート」を設立した活動家出身という、異色の経歴を持つのが辻元清美氏です。彼女の強みは、常に為政者ではなく、市民、特に社会的弱者の側に立つという視点です。

国会での歯に衣着せぬ鋭い質問は、しばしば「国会の爆弾娘」とも呼ばれます。彼女が追及するのは、主に平和、人権、そして格差の問題です。安全保障政策における政府の姿勢を問い、生活に困窮する人々の声を代弁し、権力者の不正を厳しく追及します。

その左派的な思想から、政治的に対立する立場の人々からは強い批判を受けることも少なくありません。しかし、社会の多様性を担保するためには、彼女のように「おかしいことはおかしい」と声を大にして言い続ける存在が不可欠です。彼女の存在は、政治には多様な意見のぶつかり合いが必要不可欠であることを思い出させてくれます。

6 100年の歴史を動かした新リーダー:田村智子

キャッチフレーズ:緻密な調査で、権力の「闇」を暴く

2024年、102年という長い歴史を持つ日本共産党で、初の女性委員長に就任し、大きな注目を集めました。彼女を一躍有名にしたのは、長年にわたる「桜を見る会」問題の追及です。

当初は小さな疑惑に過ぎなかったこの問題を、田村氏は膨大な資料を読み込み、緻密な調査と分析を重ねることで、税金の私物化という大きな構造ematic問題であることを突き止めました。その論理的で冷静な国会質問は、与党議員さえも唸らせ、政府を追い詰めました。

彼女のスタイルは、イデオロギーを大声で叫ぶのではなく、事実(ファクト)を積み重ねて問題の核心を突くというものです。ジェンダー平等の実現にも強い意欲を見せており、彼女のリーダーシップが、歴史ある政党にどのような新しい風を吹き込むのか、多くの人が固唾をのんで見守っています。

第2部:国会議事堂で活躍する女性政治家の仕事

華やかな女性政治家たちの活躍。その舞台裏である「政治」という仕事の現実は、私たちの想像以上にハードです。
また、お金の動きもダイナミックで資金の動きを世間に公開しなければならない政治の世界では、そのお金はどこから来たのかといった政治資金問題もたびたび取り立たされ、資金力のある二世がその点で有利に見えるものの政治家としての本質を問われる言動に非難が殺到することもあります。

そんな議員の仕事と資金問題、二世政治家について解説していきます。

国会議員の「A Day in the Life」

「国会議員って、国会で居眠りしているだけじゃないの?」――そんなイメージをお持ちの方もいるかもしれません。しかし、トップレベルの議員の日常は、分刻みの殺人的なスケジュールで埋め尽くされています。

【平日:東京・永田町にて】

  • AM 7:00 早朝勉強会。各省庁の官僚や専門家を呼び、法案に関するレクチャーを受ける。朝食をとりながら、最新の情報をインプット。
  • AM 9:00 党の部会に出席。例えば「厚生労働部会」などで、これから国会に提出される法案の中身について、党としての意見をまとめる。ここで激しい議論が交わされることも。
  • AM 10:00 委員会に出席。テレビでよく見る「国会中継」の多くは、この委員会の様子です。各分野の専門家として、担当大臣に鋭い質問を浴びせ、法案の問題点を炙り出します。
  • PM 1:00 昼食は議員食堂でカツカレーを5分でかきこむ、なんてこともザラ。その間も、陳情に来た業界団体やNPOの担当者と面会し、要望を聞く。
  • PM 2:00 本会議。法案の採決などが行われる。全議員が出席する重要な場だが、形式的な手続きで終わることも多い。
  • PM 4:00 議員会館の自室にて、秘書と打ち合わせ。地元からの要望への対応、次の質問の準備、SNSでの発信内容の確認など、タスクは山積み。
  • PM 7:00 夜の会合。支援者や財界人との会食は、重要な情報交換と人脈構築の場。週に何日も、こうした「夜の付き合い」が続く。

【週末:地元選挙区にて】

東京での華やかな活動だけが仕事ではありません。選挙で選ばれた議員にとって、地元での活動こそが生命線です。

  • 朝から晩まで、地域のイベント、お祭り、運動会などを駆け回り、有権者一人ひとりと握手し、顔と名前を覚えてもらう。
  • 後援会の会合に出席し、国政報告を行う。支援者の厳しい意見に耳を傾ける。
  • 地元の企業や農家を訪ね、現場の課題をヒアリングする。

睡眠時間は平均4〜5時間という議員も少なくありません。この超人的な激務をこなす体力と精神力がなければ、まず務まらない仕事なのです。

なぜそんなに高い?議員報酬の「表」と「裏」

これだけの激務をこなす国会議員。その報酬は一体いくらなのでしょうか。そして、そのお金はどこから来て、何に使われているのでしょうか。

【「表」の給料:年収約2,100万円】

国会議員の給料は「歳費」と呼ばれ、法律で定められています。

  • 月額歳費: 約129万4,000円
  • 期末手当(ボーナス): 年2回、合計約635万円

これらを合計すると、年収は約2,100万円になります。日本の平均給与の4〜5倍という、非常に高い水準です。その「建前」上の理由は、「高い倫理観と責任を伴う激務に見合う対価」であり、「特定の企業や団体からお金をもらわなくても、国民全体の奉仕者としてクリーンに活動できるようにするため」とされています。

【「裏」の給料①:月100万円の非課税特権、調査研究広報滞在費】

しかし、本当の問題はここからです。国会議員には歳費とは別に、月額100万円、年間1,200万円の「調査研究広報滞在費(旧・文書通信交通滞在費)」が支給されます。

驚くべきことに、このお金は非課税であり、そして領収書の提出・公開義務が一切ありません。

何に使ったかを誰もチェックできないため、「第二の給与」として議員のポケットマネーになっていると長年批判され続けています。例えるなら、会社から毎月100万円の経費が振り込まれるのに、レシートを1枚も提出しなくていいようなものです。国民の税金が、ブラックボックスの中で何に使われているか全くわからない。これは、政治不信の最大の原因の一つと言っても過言ではありません。

【「裏」の給料②:政治資金パーティーと「裏金」の錬金術】

そして、さらに根深いのが、2024年に日本中を揺るがした「政治資金パーティー裏金問題」です。これは、一部の政治家が、国民の知らないところで巨額の「裏金」を作り出していた事件でした。その手口は、こうです。

  1. 【パーティー券の販売】
    自民党の派閥などが、資金集めのためにホテルで大規模な政治資金パーティーを開催します。企業や団体は、政治家との関係を維持・強化するため、1枚2万円のパーティー券を何十枚、何百枚と購入します。事実上、企業から政治家への「献金」の抜け道となっています。
  2. 【販売ノルマとキックバック】
    派閥は、所属する議員一人ひとりに「パーティー券を〇〇枚売りなさい」という販売ノルマを課します。そして、「ノルマを超えて売った分のお金は、議員個人の収入にしていいよ」という「キックバック」が行われていました。
  3. 【不記載という「脱法行為」】
    最大の問題は、議員側が、このキックバックされたお金を、自身の政治資金団体の収支報告書に一切記載していなかったことです。派閥側も、誰にいくらキックバックしたかを書いていませんでした。これにより、本来であれば国民に公開されるべき政治資金の流れが完全に隠蔽され、巨額の資金が「裏金」として議員個人の管理下に置かれていたのです。

この裏金が何に使われたのか。一部は事務所経費などに充てられたとされていますが、その多くは使途不明です。これが、国民が汗水流して稼いだお金が原資となっている企業献金などから成り立っていると考えると、怒りを覚えずにはいられません。

この問題を受け、2024年に政治資金規正法が改正されましたが、パーティー券購入者の公開基準が少し引き下げられただけで、企業・団体献金の禁止といった根本的な改革には至らず、多くの国民が失望しました。

なぜ、そんなにお金が必要なのか?政治活動の経費内訳

「年収2,100万円に、月100万円の非課税お小遣い、さらに裏金まであるなんて…」
そう感じるのは当然です。しかし、一方で、政治活動には莫大なお金がかかるという現実もあります。政治家が「お金がかかるから仕方ない」と主張する、その経費のリアルな内訳を見てみましょう。

  • 人件費・事務所費:
    国から給料が支払われる公設秘書は3人まで。しかし、広大な選挙区をカバーするには、自腹で雇う「私設秘書」が何人も必要になります。その給料や社会保険料は、すべて議員の負担です。また、地元に構える事務所の家賃や光熱費、電話代なども、年間数百万円単位でかかります。
  • 広報活動費:
    これが経費の大部分を占めます。次の選挙に勝つためには、日頃から有権者に自分の活動をアピールし続けなければなりません。
    • 印刷費: 活動報告チラシ(通称ビラ)を数万〜数十万部印刷し、新聞折り込みやポスティングを行います。カラー印刷にすれば、一回で100万円以上かかることも。
    • 郵送費: 後援会員向けに定期的に送る会報誌の郵送代も、数が増えれば膨大な金額になります。
    • ウェブサイト・SNS関連費: 今や必須となったウェブサイトの維持管理費や、動画作成、SNS広告などにも費用がかかります。
  • 交通費・滞在費:
    選挙区と東京を毎週のように往復する飛行機代や新幹線代。地元で有権者の元を回るための車のリース代、ガソリン代、維持費も馬鹿になりません。
  • 交際費・慶弔費(いわゆる「必要悪」):
    最も国民感覚とズレがあるのが、この項目です。
    • 会合費: 支援者との会食や、業界団体との懇親会費。
    • 慶弔費: 地元の支援者の結婚式があればご祝儀を、お葬式があれば香典を持参します。これを怠ると「義理を欠く人間だ」と見なされ、命取りになりかねないという、古い慣習が根強く残っています。
    • 贈答品費: 開店祝いの胡蝶蘭、お中元・お歳暮など。これらも「顔を繋ぐ」ための必要経費とされています。

このようにお金がかかる構造自体が、クリーンな政治を目指す新規参入者を阻み、結果的にお金を集める力のある特定の人物や、資金力のある二世議員が有利になるという、歪んだ現実を生み出しているのです。

第3部:「親のコネだけ?」―2世、3世議員への厳しい視線と構造問題

政治とお金のリアルを知ると、次に見えてくるのが、日本の政界がなぜかくも「世襲」に満ちているのか、という問題です。このセクションでは、多くの国民が抱く二世議員への厳しい視線の根源と、それが社会全体に及ぼす影響について、深く掘り下げていきます。

日本の国会議員には、親や祖父母も政治家だった、いわゆる「二世・三世議員」が非常に多いのが特徴です。特に自民党では、実に議員の3割以上が世襲だと言われています。

彼らには、選挙を戦う上で圧倒的に有利な「三種の神器」があると言われます。それは、親から受け継ぐ「地盤(後援会組織)」「看板(知名度)」「鞄(資金力)」です。選挙に出るために2,000万円もの大金を用意する苦労もなければ、ゼロから顔と名前を売る地道な活動も必要ない。まさに「親ガチャ」に当たった彼らは、スタートラインからして一般の候補者とは全く違うのです。

しかし、その恵まれた環境に対し、国民からは非常に厳しい目が向けられています。胸に突き刺さるような言葉の数々は、まさにその世論を映し出しています。

「二代目、三代目は無能」
「お金があるだけで中身がない」
「親がすごいだけで本人は何もない。所詮親のコネ」
「金も家も車も仕事も親からもらえる。お金の大切さがわかってない」

なぜ、これほどまでに厳しい意見が噴出するのでしょうか。それは、多くの人が肌で感じている、いくつかの構造的な問題点に起因します。

1.「庶民感覚」との絶望的な乖離

「一般家庭で育ってこそ培われる感性」という言葉は、この問題の核心を突いています。生まれた時から裕福な家庭で「甘やかされて育ち」、欲しいものは何でも手に入ってきた「おぼっちゃま」「お嬢様」に、月数万円の給料で必死に家計をやりくりする生活が、果たして本当に理解できるでしょうか。

過去には、ある大臣がカップラーメンの値段を知らずに「400円くらい?」と答えて、世間から大きな反感を買ったことがありました。たかがカップラーメン、と思うかもしれません。しかし、これは単なる物価の知識不足の問題ではないのです。100円のカップラーメンと400円の外食ランチのどちらを選ぶか、という日常の小さな経済判断の積み重ね。その感覚がなければ、消費税を1%上げることが、低所得者層の生活にどれほどの打撃を与えるかを、肌感覚で理解することはできないでしょう。

スーパーの特売で一喜一憂したり、子どもの教育費のために自分の服を何年も我慢したりする。そんなごく当たり前の日常感覚を欠いたまま、私たちの生活に直結する政策が決められてしまうことへの根源的な不信感が、ここにはあります。

2.ハングリー精神と共感力の欠如

挫折や理不尽を乗り越え、自力で道を切り拓いてきた人には、特有の強さとしなやかさ、そして他人の痛みを理解する共感力が備わります。しかし、親から受け継いだ「人脈」と「金」で固められたエスカレーターのような道を歩んできた二世政治家の一部には、我慢や耐える努力をしたこともなければ一般家庭の生活に対する理解が決定的に欠けています。

その結果、自分より下の立場の人々を「底辺を馬鹿にしている」と見られかねない無神経な発言が出たり、気に入らないことがあるとすぐに感情的になる「わがまま」「キレやすい」といった未熟さが露呈することがあります。彼らは、自分を引き上げてくれる有力者や支援団体といった「上からしか好かれない」一方で、国民の大多数が感じる痛みや苦しみに寄り添うことができないのではないか、という根深い疑念を抱かれます。

この共感力の欠如は、政策にも表れます。例えば、非正規雇用の問題やひとり親家庭の貧困問題など、当事者の切実な声に耳を傾けず、机上の空論や精神論で片付けてしまうような答弁は、この問題の根深さを象徴しています。

3.能力・素養への疑問符

民間企業であれば、「二世経営者が経営を破綻させる」例は後を絶ちません。それは、経営者としての「素養や能力」がない人物が、ただ世襲というだけでトップに立ってしまった悲劇です。

政治の世界も同じです。本来、国の舵取りを担うには、経済、法律、歴史、国際情勢などに関する極めて高度な知性と、清廉な倫理観、そして多様な意見をまとめるバランス感覚が求められます。しかし、選挙というハードルをコネと資金力で越えられてしまうシステムでは、「本人は無能」でも議員バッジをつけられてしまう。

その結果、国会で的外れな質問を繰り返したり、政策の矛盾を突かれてもまともに答えられなかったり、あるいは脇の甘さからスキャンダルを起こしたりする姿を見て、私たちは「やはり親が偉いだけだった」と、政治全体への諦めと無力感を深めていくことになるのです。

もちろん、二世議員の中にも、親を超えるほどの見識と情熱を持ち、国民のために尽力している優れた政治家がいることは事実です。幼い頃から政治を間近に見て育った経験が、政策立案能力や人間関係構築においてプラスに働くこともあるでしょう。

しかし、問題の本質は個人の資質以上に、こうした二世議員を再生産し続ける日本の政治構造そのものにあります。世界でも類を見ないほど高額な供託金、旧態依然とした後援会活動、そして一度手にした議席を「家業」のように世襲することが許されてしまう風土。これらが、多様なバックグラウンドを持つ、本当に力のある一般市民が政界に入ることを阻む、分厚い壁となっているのです。

だからこそ、私たち有権者にできる最も大切なことがあります。それは、「二世だから」という出自だけでレッテル貼りをして思考停止するのではなく、同時に「二世だから」と無条件に投票するのでもなく、その議員一人ひとりの政策、実績、そして国会での言動を、私たちの厳しい目で冷静に見極め、一票を投じること。それこそが、政治を私たちの手に取り戻すための、最も確実な一歩と言えるでしょう。

第4部:未来を選ぶために――私たちが今日からできること

ここまで、政治の世界の光と影を、様々な角度から見てきました。「やっぱり政治って難しくて、汚い世界だ」と感じたかもしれません。あるいは、「こんな構造になっているなら、私の一票なんて無力だ」と、諦めの気持ちになった方もいるかもしれません。

でも、ここで思考を止めてしまったら、すべては変わりません。むしろ、現状を黙認し、未来を彼らに白紙委任することになってしまいます。

政治は、決して特別な誰かのものではありません。私たち一人ひとりが、この国の主権者であり、未来の脚本家なのです。最後に、歴史の目撃者から未来の当事者になるために、私たちが今日からできる具体的なアクションを提案します。

1. 「知る」ことから始める

まず、知ること。これがすべてのスタートです。

  • SNSで議員をフォローしてみる: 応援したい、あるいは逆に「この人、何を考えているんだろう?」と気になる議員のSNSをフォローしてみましょう。彼らが日常的にどんなことに関心を持ち、何を発信しているのかが見えてきます。キラキラした活動報告の裏にある、本音や人柄が垣間見えることも。
  • 選挙公報を読んでみる: 選挙の時にポストに投函される「選挙公報」。つい、読み飛ばしてしまいがちですが、ここには候補者の政策が凝縮されています。AさんとBさんで、子育て支援策にどんな違いがあるのか。比べて読むだけで、立派な政治参加です。
  • ニュースの「一次情報」に触れる: テレビのコメンテーターの意見を鵜呑みにするのではなく、たまには首相官邸のウェブサイトで記者会見の全文を読んでみたり、国会の審議中継をYouTubeで見てみたりする。誰かの解釈を挟まない一次情報に触れると、メディアが報じていない重要なポイントが見えてくることがあります。

2. 「対話」の輪を広げる

政治の話は、意見が違うと気まずくなるから…と、日本ではタブー視されがちです。でも、日常の小さな対話が、社会を変える大きなうねりになります。

  • ランチタイムに、友人と話してみる: 「最近、物価高いよね。政府の対策って、効果あるのかな?」そんな素朴な疑問からで構いません。自分の意見を押し付けるのではなく、相手の考えを聞く。多様な視点を知ることが、自分の考えを深めるきっかけになります。
  • 家族と、社会問題について話す: 例えば、親の介護の問題や、子どもの教育の問題。これらはすべて政治に繋がっています。「こういう制度があったら助かるのにね」と話し合うことが、どんな政策が必要かを見極める目を養います。

3. 「選択」し、意思表示する

私たちの意思表示は、投票だけではありません。

  • 投票に行く: これが、私たちに与えられた最強の権利です。「誰に入れても同じ」ではありません。白票でもいい。棄権は、現状維持に「賛成」の一票を投じるのと同じ意味を持ちます。あなたの意思を、投票という形で必ず示しましょう。
  • パブリックコメントを送る: 政府が新しい法律や制度を作るとき、「国民の皆さんから意見を募集します」というパブリックコメントの期間を設けることがあります。専門家でなくても、一国民として「この制度は、こういう点で困ります」と意見を送ることができます。あなたの声が、政策を修正するきっかけになるかもしれません。
  • 応援したいNPOや団体に寄付をする: 例えば、子どもの貧困問題に取り組むNPOや、ジェンダー平等のために活動する団体など、自分の価値観と合う活動を支援することも、立派な政治参加です。

まとめ:一人一人の参加が、社会を変えていく力になる

政治とは、突き詰めれば「社会の未来をどう作っていくのか」という、創造的な営みのはずです。しかし、いつしか一部の特権階級の人々のための「椅子取りゲーム」のようになってしまいました。

とはいえ放っておいても好転していかないことは明白です。リーダーを選ぶ権利は一人一人にありますので、日々の暮らしの中で感じる、小さな「なぜ?」や「おかしいな」という違和感や、現状での課題を解決してくれる、これからの政治を託せる人を選びましょう。

「女性だから」という理由でキャリアを諦めなければならないのは、なぜ?
「子育ては母親がするもの」というプレッシャーが、なぜなくならないの?
真面目に働いているのに、なぜ暮らしは楽にならないの?

その違和感を素通りせず、選挙で投票するといった一つひとつのアクションが、必ず、社会をアップデートしていく力になります。

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