【妊娠したら辞めてと言われた】地方の中小企業勤務の女性のキャリア形成

赤ちゃんと公園で遊ぶ母親

地方の中小企業の資本力には育休女性1人分の人件費の余裕もないのか

もくじ

妊娠はおめであいのに仕事は退職

お腹に新しい命が宿ったことに気づいた、あの日。言葉にできないほどの喜びと愛おしさを感じたはずなのに。

勇気を出して上司に報告した瞬間、その幸せは、冷たく硬い絶望に変わってしまった――。

「おめでとう。…でも、うちみたいな従業員30人の中小企業に、産休や育休を取らせてあげる余裕なんて、正直ないんだよ」
「他の社員に迷惑がかかる。悪いけど、これを機に退職っていう形で考えてくれないか?」
「君の体のことも心配だし、無理せずゆっくりしたほうがいいんじゃないかな(=だから辞めてほしい)」

そんな信じられないような言葉を投げかけられ、あなたは今、パソコンの画面の前で、誰にも言えない孤独と不安、そして深い怒りに震えているのではありませんか。

のような「マタニティハラスメント(マタハラ)」、特に人員に余裕のない中小企業における事例は、決して他人事ではありません。2025年の今も、日本の片隅で、多くの女性が声を殺して涙を流している現実があります。

最初に、最も大切なことをお伝えします。妊娠・出産を理由に、あなたを辞めさせたり、不利益な扱いをしたりすることは、断じて許されない「違法行為」とされていますが、物価高や人件費の高騰、少子高齢化により地方の中小企業は弱るばかりで育休に入る女性を守る余力がないのが実情です。

リスキリング支援が拡充していく中、退職後の子育てをしながらできるキャリアアップの方法をご紹介します


第1部:あなたの「盾」となる法律――これだけは知っておきたい3つの権利

「でも、会社の経営が大変なのもわかるし…」追い詰められたあなたは、そう思ってしまうかもしれません。しかし、法律は、会社の規模や都合に関わらず、働くすべての女性を守るために存在します。まずは、あなたに与えられた揺るぎない「権利」を知り、知識という名の盾を装備しましょう。

権利その1:妊娠・出産を理由に「クビにされない」権利

【根拠法:男女雇用機会均等法 第9条】

これは、あなたを守る最も基本的な法律です。この法律では、妊娠・出産、そして産休を取得したことなどを理由とする、解雇やその他の不利益な取扱い(減給、降格、正社員からパートへの契約変更など)を明確に禁止しています。

上司の「辞めてくれないか?」という言葉は、退職を強制する「解雇」ではなく、自主的な退職を促す「退職勧奨」かもしれません。しかし、それがあなたの自由な意思を妨げるほど執拗であったり、断っているのに繰り返されたりする場合は、違法な「退職強要」にあたります。

権利その2:産前・産後、仕事を「休める」権利

【根拠法:労働基準法 第65条】

産休(産前産後休業)は、会社の許可を得るものではなく、あなたが請求すれば会社は絶対に拒否できない、法律で定められた権利です。

  • 産前休業:出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から、あなたが請求すれば取得できます。
  • 産後休業:出産の翌日から8週間は、原則として就業させてはならないと定められています。(本人が希望し、医師が許可した場合は6週間後から就業可能)

「うちには産休制度がないから」という会社の言い訳は、一切通用しません。これは、会社の就業規則以前に、国の法律で定められた大原則なのです。

権利その3:子どもを育てるために「休める」権利

【根拠法:育児・介護休業法】

育休(育児休業)もまた、法律で定められた労働者の権利です。原則として、子どもが1歳になるまで(特定の条件下では最長2歳まで延長可能)の間、申し出ることにより取得できます。

一定の条件(継続雇用1年以上など)はありますが、ほとんどの正社員、そして条件を満たす契約社員やパートタイマーも対象となります。2025年現在、政府は「異次元の少子化対策」の柱として、育休取得の促進や給付金の増額を打ち出しており、社会全体で子育てを支えようという機運は高まっています。また、男性の育休取得も少しずつですが当たり前になりつつあります。そんな時代に、女性だけが妊娠を理由にキャリアを諦めなければならないのは、あまりにも理不尽です。

【中小企業の経営者の方へ】国は手厚い支援を用意しています

この記事を読んでいるかもしれない経営者や人事担当者の方へ。従業員の妊娠・出産は、決して「コスト」や「リスク」ではありません。国は、従業員が産休・育休を取得した際に、代替要員を確保したり、職場復帰を支援したりする中小企業向けに、「両立支援等助成金」という手厚い支援制度を用意しています。これらの制度を活用すれば、会社の負担を最小限に抑えながら、大切な従業員を守り、働きやすい職場環境を整えることが可能です。優秀な人材を失うことの損失は、助成金を活用する手間よりも遥かに大きいはずです。


第2部:あなたの「武器」となる行動――今すぐやるべき5つのステップ

法律という盾を手に入れたら、次は具体的な行動です。感情的にならず、冷静に、しかし毅然と。あなたの未来を守るための5つのステップをご紹介します。

Step 1:その場で「はい」と言わない、サインしない

退職勧奨を受けたとき、恐怖とパニックで頭が真っ白になるかもしれません。しかし、絶対にその場で退職届にサインしたり、「わかりました」と口約束したりしないでください。

「大切なお話ですので、一度持ち帰って、家族とも相談させていただけますでしょうか」

こう言って、時間稼ぎをすることが何よりも重要です。一度「辞めます」と言ってしまうと、後から覆すのは非常に困難になります。

Step 2:すべての記録を残す(マタハラ日記をつける)

これが、後々あなたを救う最も強力な武器になります。いつ、どこで、誰に、何を言われたか。できるだけ具体的に、時系列で記録しましょう。

  • 日時・場所:例「2025年10月6日 15:00、社長室にて」
  • 同席者:例「〇〇社長、△△部長」
  • 言われた内容(一言一句):例「『妊娠おめでとう。でもうちの会社に産休の余裕はないから、辞めてくれないか』と言われた」
  • あなたの気持ち:例「頭が真っ白になり、涙が出そうになった。悔しくて眠れなかった」

ICレコーダーで会話を録音することも、可能であれば非常に有効な証拠となります。メールやSNSでのやり取りも、すべて保存・印刷しておきましょう。

Step 3:一人で抱え込まず、味方を見つける

この戦いは、孤独である必要はありません。まずは、信頼できる人に話を聞いてもらいましょう。

  • パートナー(夫)や家族:一番身近な味方です。現状を正確に伝え、精神的な支えになってもらいましょう。
  • 信頼できる同僚や先輩:社内に一人でも味方がいると、心強いものです。過去に同様のケースがなかったかなど、情報を得られる可能性もあります。

誰かに話すだけで、気持ちが整理され、冷静さを取り戻すことができます。

Step 4:公的な「無料相談窓口」に電話する

ここからが、プロの力を借りるフェーズです。以下の窓口は、すべて無料で、匿名での相談も可能です。守秘義務があるので、会社に知られる心配はありません。

  1. 総合労働相談コーナー(各都道府県の労働局・労働基準監督署内):
    国が設置している、働く人のための総合相談窓口です。マタハラを含む、あらゆる労働問題について、専門の相談員がアドバイスをくれます。必要であれば、会社への「助言・指導」や、弁護士などを交えた「あっせん(話し合いの仲介)」も無料で行ってくれます。まず、どこに相談していいかわからない場合は、ここが第一選択肢です。
  2. 法テラス(日本司法支援センター):
    国によって設立された、法的トラブル解決のための総合案内所です。経済的に余裕がない場合でも、無料で法律相談を受けられたり、弁護士費用を立て替えてもらえたりする制度があります。
  3. 労働組合(コミュニティ・ユニオンなど):
    あなたの会社に労働組合がなくても、個人で加入できる地域の労働組合(コミュニティ・ユニオン)があります。組合に加入すれば、あなたに代わって会社と団体交渉を行ってくれるなど、非常に力強い味方になってくれます。

電話一本かける勇気が、状況を大きく変えることがあります。

Step 5:専門家のアドバイスをもとに、会社と交渉する

相談窓口で得た知識とアドバイスをもとに、会社に対してあなたの意思を明確に伝えます。伝える際は、感情的にならず、書面(内容証明郵便などが望ましい)で冷静に、しかし毅然と行うのが効果的です。

【伝え方の例】
「先日の面談では、退職のお話がございましたが、私は、出産後も貴社で働き続けたいと強く希望しております。労働基準法および男女雇用機会均等法に基づき、産前産後休業、および育児休業を取得させていただきたく、改めて申請いたします。ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。」

法律を背景に、あなたの権利を主張することで、会社の対応が変わる可能性は十分にあります。


第3部:あなたの心と体――妊娠中の不安とセルフケア

キャリアの不安と同時に、妊娠中の女性には、心と体の大きな変化が訪れます。職場のストレスは、その変化をさらに辛いものにしてしまいます。ここでは、頑張るあなたの心と体を守るための知識とケアについてお伝えします。

「マタニティブルー」はあなたのせいじゃない

妊娠中の気分の落ち込み、涙もろくなる、イライラする…。これらは「マタニティブルー」や「産後うつ」の前兆かもしれません。ホルモンバランスの急激な変化に加え、「自分の仕事はどうなるんだろう」「夫がもし働けなくなったら…」といった将来への**深刻な不安**が、心を蝕んでいきます。

特に、職場でマタハラに遭っている場合、そのストレスは計り知れません。どうか、「自分が弱いからだ」と責めないでください。これは、誰にでも起こりうる、心の不調です。辛いときは、我慢せずに産婦人科医やかかりつけの医師、地域の保健師さんに相談しましょう。

妊娠中の「あるある」な不調と仕事の両立

  • つらい通勤ラッシュ:
    大都市での満員電車での通勤は、妊婦にとって大きな負担です。法律では、事業主に「時差出勤」や「勤務時間の短縮」など、通勤緩和の措置を講じる義務を定めています。医師に「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」を書いてもらい、会社に提出することで、正式にこれらの措置を請求できます。
  • 眠気、むくみ、鉄分不足…:
    妊娠中は、眠気やだるさ、足のむくみ、貧血(鉄分不足)といった不調が起こりやすくなります。無理は禁物。休憩をこまめに取ったり、楽な服装を心がけたり、鉄分豊富な食材(レバー、ほうれん草、あさりなど)を意識して摂ったりしましょう。骨盤ベルトは、腰痛の緩和や早産予防にも繋がる心強い味方です。
  • 仕事はいつまで続ける?:
    法律では産前6週間前まで働けますが、体調は人それぞれ。お腹の張りや疲れを感じたら、早めに産休に入ることも検討しましょう。あなたの体と、お腹の赤ちゃんの健康が最優先です。

夫への「うらやましい」気持ちとの向き合い方

自分はつわりで苦しみ、キャリアの危機に瀕し、大好きなお酒や運動も我慢している。なのに、夫は今まで通り仕事に行き、同僚と飲みに行ったり、週末はスポーツを楽しんだり…。そんな姿を見て、どうしようもない焦りや怒り、そして「うらやましい」という気持ちが湧き上がってくることがあります。

この感情も、決してあなたがおかしいわけではありません。妊娠・出産という、女性だけが経験する心身の激変に対する、自然な反応です。大切なのは、その気持ちを一人で溜め込まないこと。「私ばっかり我慢して、ずるい!」と感情的にぶつけるのではなく、「体が思うように動かなくて、あなたが自由にしているのを見ると、時々すごく羨ましくなって、悲しくなるんだ」と、自分の素直な気持ち(Iメッセージ)で伝えてみましょう。パートナーとの対話が、この困難な時期を乗り越える一番の力になります。


第4部:その先へ――キャリア断絶を防ぎ、未来を選ぶために

戦いの末、無事に産休・育休を取得できたとしても、あるいは、残念ながら退職という道を選ばざるを得なかったとしても、あなたのキャリアはそこで終わりではありません。ここからは、出産後の未来を見据えたお話をします。

「育児による空白期間」は、本当に“空白”か?

多くの女性が、育児による離職期間を「キャリアのブランク」と捉え、再就職に不安を感じます。しかし、その見方を180度変えてみませんか?

育児とは、一つの命を預かり、24時間365日体制でその成長をマネジメントする、極めて高度なプロジェクトマネジメントです。限られた時間の中でのマルチタスク能力、子どもの体調変化に対応するリスク管理能力、理不尽な要求に応える交渉力…。これらは、ビジネスの世界で求められるスキルそのものです。この期間を「空白」ではなく、**「人間力を飛躍的に高めた、実践的トレーニング期間」**と捉え直しましょう。

「正社員」への道は一つじゃない

正社員だったけど出産を機に退職し、パートや派遣になった…。そんな経歴に、引け目を感じる必要は全くありません。子育て期に、あえて柔軟な働き方を選ぶのは、賢明なライフプランニングです。

そして、子どもが手を離れたタイミングで、再び正社員を目指す道は、いくらでもあります。国や自治体も、女性の再就職を支援するプログラム(マザーズハローワークなど)を数多く用意しています。

究極の選択:これからは「実績のある会社」を選ぶ

今回の辛い経験から、私たちが学ぶべき最大の教訓。それは、「女性は、産休・育休・介護休暇の取得実績のある会社に就職・転職したほうがいい」という、身も蓋もないけれど、絶対的な真実です。

これからの転職活動では、給与や待遇だけでなく、以下の点を必ずチェックしましょう。

  • 女性社員の平均勤続年数と管理職比率
  • 産休・育休の取得率と、特に「復職率」
  • 「くるみんマーク」など、子育てサポート企業としての国の認定を受けているか
  • 口コミサイトなどで、元社員や現役社員のリアルな声を確認する

あなたの経験は、次に働く場所を賢く選ぶための、最高の判断基準になるのです。


おわりに:あなたは、決して一人ではない

長い長い旅路にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

今、あなたが感じている不安や怒り、そして悲しみは、決してあなた一人のものではありません。かつて、多くの先輩たちが同じように涙を流し、それでも少しずつ声を上げ、戦ってきたからこそ、今、私たちには法律という盾があります。

あなたの今日の小さな一歩が、あなた自身の未来を守るだけでなく、これから同じ壁にぶつかるかもしれない、未来の後輩たちのための道を、ほんの少しだけ切り拓くことに繋がっています。

どうか、一人ですべてを背負わないでください。パートナー、家族、友人、そして公的な相談窓口。あなたの周りには、手を差し伸べてくれる人や場所が必ずあります。

あなたのお腹に宿った新しい命は、祝福されるべき希望です。決して、あなたのキャリアを諦める理由になんて、なってはいけない。会社の都合で、あなたの人生を決めさせないで。

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